従業員が妊娠した際に会社がすべきこと
2020年9月23日更新
従業員が妊娠すると、会社がすべきことはたくさんあります。
健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法、労働基準法、育児介護休業法など関連する法律も多岐にわたり、非常に複雑になっています。
そこで本記事では、従業員の妊娠がわかった後の流れと、その詳細について解説いたします。
【注意】
本記事はあくまでも一般的な例ですので、規則によっては会社ごとに異なるケースもありえます。実際に業務を行う場合は、自社の規則やルールをしっかりと把握してから行ってください。
目次
出産育児フロー
下の図では、妊娠判明から小学校入学までの一般的な流れを表しています。まずはこちらで全体の流れを把握してください。
すべきことの詳細
出産育児フローにある会社がすべきことを、項目ごとに詳しく解説いたします。
妊娠判明
妊婦の軽易業務への転換
妊婦から請求があった場合は、他の軽易な業務に転換させなければなりません。
妊産婦の危険有害業務の就業制限
妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な一定の業務に就かせてはなりません。
具体的には、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務などです。
妊産婦の母性健康管理に必要な措置
妊産婦が保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保し、医師または助産師による指導事項を守ることができるように、必要な措置を講じなければなりません。
必要な時間とは
①健康診査の受診時間
②保健指導を受けている時間
③医療機関等での待ち時間
④医療機関等への往復時間
必要な時間の確保
妊娠中 | 妊娠23週まで | 4週間に1回 |
妊娠24週から35週まで | 2週間に1回 | |
妊娠36週以降出産まで | 1週間に1回 | |
産後(産後1年以内) | 医師等が保健指導または健康診査を受けることを指示したときは、その指示により必要な時間を確保できるようにする。 |
必要な措置
①妊娠中の通勤緩和(時差出勤、勤務時間短縮、交通手段・通勤経路変更など)
②妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩回数の増加、休憩時間帯の変更)
③妊娠中または産後症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間短縮、休業など)
産前休業 開始
出産予定日の6週間前(42日前)から産前休業を取得することができます。
ただし、多胎妊娠の場合は14週間前(98日前)から取得可能です。
社会保険料の免除開始申請
産前産後休業中は、会社負担分も含めて社会保険料が免除されます。(女性に限る。)
実際に産前休業に入った日から、出産予定日から算出した産後休業終了予定日までについて申請します。
申請は産前産後休業期間中に行う必要があります。
申請書は日本年金機構のサイトから取得してください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140326-01.html
出産
出産日が確定すると産後休業終了日も確定します。
社会保険料の免除期間変更申請
社会保険料の免除申請は、出産予定日から算出した産後休業終了予定日までの申請をしているので、実際の出産日が予定日からズレた場合は産後休業終了日も変わるため、社会保険料の免除期間を変更する申請を行う必要があります。
申請書は日本年金機構のサイトから取得してください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140326-01.html
産後休業 終了
出産日の翌日以後8週間(56日間)は産後休業となります。
ただし、本人が就業を希望し、医師が支障なしと認めれば、産後6週間経過後からは就業可能です。
社会保険料の免除終了申請
出産時に免除期間変更を申請していない場合や、予定より早く復帰したなどの場合は、社会保険料の免除を終了する申請を行う必要があります。
申請書は日本年金機構のサイトから取得してください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140326-01.html
出産手当金の申請
一般的に、産前産後休業中は給与が発生しません。
そこで休業中の生活保障として健康保険から出産手当金を受給することができます。
受給額は、「支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 2/3」なので、ざっくりとした感覚だと毎月の給与総額の66%ほどです。
申請は任意の期間で区切って行うことができますが、弊所では産後時期に産前産後の合計14週分をまとめて申請することが多いです。
詳しい受給額の算出方法や申請方法は、健康保険協会のサイトを参考にしてください。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r125/
育児休業 開始
産後休業終了の翌日から、原則としては1歳の誕生日の前日まで、育児休業を取得することが可能です。
例外的に育児休業を取得できないケースもありますので、会社の育児介護休業規程をしっかりと把握しておきましょう。
社会保険料の免除開始申請
産前産後休業中と同様に、育児休業中も社会保険料の免除制度があります。会社負担分も免除されることも同様です。
ただ、産前産後休業中とは別に、育児休業期間中の免除申請を行う必要があります。
免除期間は最長で3歳まで指定することが可能ですが、申請については、まずは1歳までしか申請できません。
その後はケースごとに異なりますが、1歳以降も休業する場合は、少なくとも2回以上は申請する必要があります。
詳しい制度概要や申請方法は、日本年金機構のサイトを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/ikuji-menjo/20140327-05.html
育児休業給付金の申請
産前産後休業中は生活保障として健康保険から出産手当金を受給できましたが、育児休業期間中は雇用保険から育児休業給付金を受給することができます。
受給額の算出方法は複雑ですが、簡単に解説すると、「直近6カ月の給与の平均額」に「給付率」をかけて算出されます。
給付率は、最初の180日間が67%、181日以降は50%となります。
基本的には1歳の誕生日の前々日まで受給することができますが、保育所等に入所できないなどの理由があれば1歳以降も受給でき、最長で2歳の誕生日の前々日まで受給できます。
ただし、1歳以降に延長する場合は事前に保育所等に入所を申し込み、入所不可の通知を受け取った場合などの条件がありますので、延長したい場合は1歳の誕生日の数か月前から準備することをおすすめします。
詳しい受給額の算出方法や申請方法は、ハローワークのサイトを参考にしてください。
以下のURLから「育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて」をクリックするとパンフレットが表示されます。
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_continue.html
育児休業 延長
1歳の時点で保育所等に入所できないなどの理由がある場合は、1歳6か月まで育児休業を延長することができます。
育児休業給付金の延長
雇用保険から受給できる育児休業給付金についても、保育所等に入所できないなどの理由があれば延長が可能です。
最長で2歳までの延長が可能ですが、まずは1歳6か月までの延長を申請することになります。
ただし、事前に保育所等へ入所を申し込み、入所不可の通知を受け取っておき、それを添付して申請しなければなりません。
少なくとも1歳の誕生日の2か月ほど前から準備しておくことをおすすめします。
社会保険料の免除期間変更申請
育児休業を延長するということは、社会保険料の免除期間も延長されることになります。
育児休業が始まったときには1歳までの免除申請をしていますので、新たに1歳6か月までの申請をすることになります。
詳しい制度概要や申請方法は、日本年金機構のサイトを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/ikuji-menjo/20140327-05.html
育児休業の再延長
1歳6か月の時点で保育所等に入所できないなどの理由がある場合は、2歳まで育児休業を再度延長することができます。
また、会社の制度によっては2歳以降も休業を延長できることもあります。
育児休業給付金の再延長
1度目(1歳のとき)と同様です。
育児休業給付金を受給できるのは、最長でも2歳までです。
社会保険料の免除期間変更申請
1度目(1歳のとき)と同様です。
社会保険料を免除できるのは、最長でも3歳までです。
育児休業の終了
特に予定よりも早く終了して復帰した場合に注意が必要です。
社会保険料の免除期間終了
予定の終了日よりも早く復帰した場合は、社会保険料の免除期間が終了したことを申請する必要があります。
申請書は日本年金機構のサイトから取得してください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/menjo/20140326-01.html
復帰から約3か月後
復帰から2〜3か月経過後に、社会保険の申請をすることができる場合があります。
育児休業終了時月額変更届
育休から復帰した際、復帰した月を含めて3か月間に支払われた報酬の平均額を基に、4か月目からの標準報酬月額を変更することができます。
これは通常の随時改定とは違い、1等級でも差が生じれば改定することができます。
復帰後、短時間勤務や育児休暇などで給与が少なくなった場合、固定給の変動や大幅な変動がなくても、復帰後の給与に合わせた標準報酬月額に改定することができる制度です。
制度の詳細や申請方法は、日本年金機構のサイトを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/ikuji-menjo/20150407.html
養育期間特例の申請
育休から復帰後に短時間勤務などにより標準報酬月額が低下した場合、子が生まれる前の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなして年金額を計算できます。
養育期間中の給与の低下が将来の年金額に影響しないようにできる制度です。
対象となるのは子が3歳になるまでの期間です。
制度の詳細や申請方法は、日本年金機構のサイトを参考にしてください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20150120.html
復帰後 1歳まで
復帰後、子が1歳になるまでは、育児介護休業法により次のように働き方に配慮する必要があります。
育児時間の付与
1歳未満の子を育てる女性が請求した場合には、休憩時間とは別に1日2回、それぞれ30分以上の育児時間を与えなければなりません。
なお、1日の労働時間が4時間を下回る場合には1日1回で構いません。
育児時間を有給にするか無給にするかは会社の規則次第です。
復帰後 3歳まで
復帰後、子が3歳になるまでは、育児介護休業法により次のように働き方に配慮する必要があります。
所定労働時間の制限
3歳未満の子を育てる従業員が請求した場合は、所定労働時間を超えて労働させてはなりません。
所定労働時間は法定労働時間(1日8時間、週40時間)とは違い、規則や契約で定められた労働時間です。
つまり簡単に言うと、残業させてはいけないということです。
なお、労使協定を締結すると以下の人は対象外とすることができます。
・入社1年未満の従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
育児短時間勤務
3歳未満の子を育てる従業員が請求した場合は、1日の所定労働時間を原則として6時間とする短時間勤務を認めなければなりません。
なお、以下の人は対象外とすることができます。
・日雇従業員
・1日の所定労働時間が6時間以下である従業員
・入社1年未満の従業員(除外するには労使協定の締結が必要)
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員(除外するには労使協定の締結が必要)
復帰後 小学校入学まで
復帰後、子が小学校に入学するまでは、育児介護休業法により次のように働き方に配慮する必要があります。
子の看護休暇
小学校入学前の子を育てる労働者が請求した場合、子の疾病や負傷についての世話、予防接種、健康診断などのために、年間5日(育てる子が2人以上の場合は年間10日)の看護休暇を取得することができます。
看護休暇は半日単位で取得することもできます。
看護休暇を有給にするか無給にするかは会社の規則次第です。
なお、労使協定を締結すると以下の人は対象外とすることができます。
・入社1年未満の従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
時間外労働の制限
小学校入学前の子を育てる従業員が請求した場合、1か月に24時間、1年間に150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。
もちろん36協定の締結は必要です。
なお、以下の人は対象外とすることができます。(労使協定の締結不要)
・日雇従業員
・入社1年未満の従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
深夜業の制限
小学校入学前の子を育てる従業員が請求した場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜(22時から5時)に労働させてはいけません。
なお、以下の人は対象外とすることができます。(労使協定の締結不要)
・日雇従業員
・入社1年未満の従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
・所定労働時間の全部が深夜にある従業員
・申出に係る子又は家族の16歳以上の同居の家族が次のいずれにも該当する従業員
①深夜において就業していない者(1か月について深夜における就業が3日以下の者を含む。)
②心身の状況が申出に係る子の保育又は家族の介護をすることができる者であること。
③6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産予定でなく、かつ産後8週間以内でない者であること
まとめ
出産育児に関する業務は1年以上かかることがほとんどです。
よって、全体像を把握してスケジュールを作成し、複数人で共有することをお勧めします。
弊所では出産育児に関する手続きの代行をしておりますので、自社での処理が面倒な場合はお問い合わせください。